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過渡期の巣箱

過渡期の巣箱

子供が学校から帰ってきて
俯きがちにただいまと言ったきり
部屋に閉じこもる

友達とけんかでもしたのかと
しばらく時間を置いて隣の部屋から様子を伺い

 落ち着いたらお茶でも飲まない?

と声をかけると
子供は目を赤くして部屋から出てきた

お茶を入れておやつを添える
いつもなら真っ先に手を伸ばすお菓子に
なかなか手が伸びない

 なにかあったの?

声をかけるとうつむいたまま
涙をぽとぽととこぼして
重たく閉じた口をやっと開いて

 おかあさん
 私 死ななきゃいけないのかな

そう言った

学校の昼休み
あまり馴染みのない子に

 死ね

と言われたという

今時の子供たちの
 死 という言葉の
近さと軽さ

死は
現実味を帯びないほどに
リアルが不足しているのか

子供には普段から
言葉は物理的には人を殺さないけれど
心を殺すのと同じくらい
ダメージを与えることがある
口から軽々しく出してはいけない言葉があることを
いつも頭の中に入れて置くようにと
常々話している

そのこともあってか
余計ショックが大きかったらしい

現在の司法においても
死をもって償うことにおいては
法の専門科が何人集まっても
慎重に慎重を重ねて協議しても

 死をもって償え

という判決はなかなか出ない

それと照らし合わせて考えて
あなたはその子に
死をもって償わなければならないような
酷いことをしたのかと問えば
それはないと言う

そして相手の子をかばうように

 そんなに酷く言ったわけじゃない
 軽い感じで言ったんだ

と言うから
 息を吐くように軽く
 死が口元から出ることのほうが
 よくないことなのよ
そういってゆっくりとわかるように
話して聞かせた


なにぶん多感な時期の
まだまだ荒削りな子供たち
うまく自分の感情や意見を
伝えるのが難しいのかもしれない
お互い傷つけあったり和解したりして
大人になっていくけれど
まだまだ過渡期
大人になるまでいろんな葛藤も
もどかしさもある

何度も繰り返していきながら
人間関係を学んで成長していく
もちろん大人になってもそれは続くし
ある意味それは
命が終わるまで過渡期でもある
生きている間は誰もが試行錯誤だ
答えは自分で出すしかない

だからと言って
やたらと纏わりついたり
突き放すのではなく
少し遠くから
その様子を見守っていなければ
子供たちは見えない何かに絡め取られて
手の届かない風の中に
安易に身を投じてしまう

力ない小鳥のように

そうなる前に

 あなたが帰ってくる場所は
 必ずいつもここにあるから
 どんなに辛いことがあっても
 自分でこの家に帰っておいで

そう言い続ける母親でいよう

心の傷で立ち上がるのがつらいときでも
風に攫われそうになったときでも
ふと思い出して
いつでもこの家に戻ってくるように

どんなに重い
 ただいま
の声でも
 あら おかえり
湯気の立つ台所から
いつものように返事を返す

この家は
夕方の小鳥帰る過渡期の巣箱


201410


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テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

ジャスミン

ジャスミン

今年も咲いたね
いい香りでしょう?
君の花だよ

君の名前の由来は
このにあるんだよ
そっと教えてあげようね

この
ちっちゃくて白い五弁のでしょ
同じ季節に咲く
薔薇や牡丹のように豪華な美しさはないね

だけど
雨に打たれても
自分の重さにうなだれたりせず
キッパリと上を向いて咲くんだよ
まるで迷いがないように

そして
目を閉じていても
この香りがわかるでしょう?
他の花とは違う
この花だけの香り

そうね
たとえばあなたが黙っていても
美しさで人目を惹かない
目立たぬちいさな薫る花のように
存在感がある人になってほしいな

取り立てて美しくなくてもいい
確とした存在感がある人で居てほしい
そんな思いで
この花に名前をもらったんだよ

毎年この花が咲くと
君の花が咲いたよ」
そう言うのは
そんな由来があるからなんだよ

今年もこの花が咲いて
君は来週十歳になる
個性あふれるはっちゃけ娘

花のイメージからは
ちょっと遠いけど
素直で元気でいてくれて
ほんとうにありがとう

あと何度
こんな会話ができるかな

君が成長して
好きな人の傍で
生きたいと思うようになって
この家を去るその日まで

ここで咲いていて
開花十年目の
ちいさな
白いジャスミン

201105

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テーマ : ある日の風景や景色
ジャンル : 写真

いつか旅立つショコラ

いつか旅立つショコラ


買い物について来るなんて
珍しいこともあるねと思えば
スーパーに着いたとたん
見たいものがあるからと
君は迷わず製菓コーナーを目指す

あぁ もうそんな時期か
赤やピンクの華やかなパッケージで
花屋の店先のような一角

年に一度 冬にやってくる
恋人たちをとかす
ショコラのイベント

 今年はね
 ぜったいぜったい手作りだよ
 あげる子いるんだから
 頑張って作るの
 だから作り方教えてね

どうやら君も
恋をする年頃になったらしい
とはいえまだ
ほんの入り口のようだけど

思い起こせば自分も
この人と同じ頃
気になる男の子がいて
ドキドキしながら渡した
小さな包み

きっと
あのときの私と
気持ちは同じだね

きっと君も
これから先 毎年毎年
この時期になると
あれやこれや悩むようになるだろう

最初はまだ
ふわふわ綿菓子気分で
チョコ選びの楽しみだけど
回数を重ねるごとに
選ぶものも変わってくる

パッケージやラッピングから
トッピング フレーバー
そして最終的には
自分が乗るべき人生のレールが
まっすぐ伸びるホームで
その先に待つ人に手渡す
そのショコラ
時間をかけて選ぶ

私もそんな頃があったように
君もそうするだろう
そしてひとつひとつ
自分で決めて歩くのを
少し距離を置いて見守ろう

口や手を出すのは簡単だけど
そうしてしまえば
君の人生ではなく
私が作った型に流し込んで作った
ショコラと同じになってしまう

自分で選ばなければ
自分の人生ではないから
明らかな間違いでない限り
君の選択を信じよう

だから自分で
選択できるようになる日まで
いろんな作り方を教えよう
基本の優しいものから
難しいものまで
自由に方法が選べるように
納得できるまで
なんども 丁寧に

そしていつの日か
自分が進む行き先のホームで
口を一直線に結んで
意を決して立つ
君の手には
いつか旅立つショコラ

そしてその日の
君の姿を思いながら

 どれどれ?

真剣なまなざしの後ろから
材料をふむふむと覗き込み
 これを使うのよ
何てことを言いながら
色気のない大根やみかんが
我関せずと他人事を決め込むかごに
チョコレートの材料を放り込み
レジに並んだ

まだまだちいさな
君の背中を
飛び立つ方向に
少し優しく押した
夕方のスーパーマーケット

201201


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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

満ち潮

満ち潮

秋の夕方
元気な「ただいま」の声を聞きながら
今日も無事に帰ってきた
声の主に安堵しながら
夕食の支度を始める

何にしようかな
冷蔵庫を覗き込みながら

 まずは宿題済ませなさいね
 いまなら夕食リクエスト絶賛受付中~

そんなことを言いながら
チルド室の肉を確認して
手洗いうがいを済ませた子供に
おやつはクッキーがあったっけ
冷蔵庫のドアを閉めると
困った顔と鉢合わせた

帰宅時の元気な声で安心したのに
何か学校であったのかな

 どうしたの

と声をかける

 おかあさん あのね

 どうした?何か困ったことがあった?

 んー……

洗面所に私を黙って引っ張っていき
こっそりと耳打ちをする

 あのね 血が出てきたと

 え…… あ そっかぁ おめでとう

子供をぎゅっと抱きしめる
はじめての満ち潮が訪れたんだね

ほんの数日前
お風呂上りの無邪気な子供の
様子を見るつもりで
タオルを届けた脱衣所

腰に丸みがついて
膨らんできた胸に目がいったとき
もしやそろそろ
そう思いながら
子供から女になる体のことを話した
まるで何かが知らせたかのように

 血が出てくるけども汚くはないのよ
 清潔にしなきゃいけないけど穢れではないの

 どうして?

 生まれてくる子供は汚くも穢れてもいないよね
 新しい命をお祝いするでしょ
 あなたが生まれたときもそうだったの
 そして新しい命を宿せる体になった証しなの

そう話したばかりだった

 じゃあ今日はお祝いだぁ

 えー?なんの?どうして?

 新しい命のためのお祝いの前倒しだよ

そういって笑うと
先日教えた手当ての仕方を
簡単にもう一度説明して
慌しく買い物に出かける

お祝いだしなぁ
お寿司はあのお店がおいしかったし
ケーキはあのお店の小ぶりの丸い苺のやつ
忘れちゃいけないお赤飯は角の和菓子屋さんで

暮れていく縹(はなだ)色の街を
連なる帰宅ラッシュのテールランプに
巻き込まれないように避けながら
最短距離の裏道を走って
お祝いの食卓の買い物をしながら
いろんなことを考える

これから好きな人もできるだろう
いろんな人に巡り会って
いろんな人を知るだろう

愛することもあれば
憎むこともある
うまく行かないこともあるだろうし
不条理なこともある

辛いこともあるかもしれない
だけど

私もそうだったように
この人も
いつか誰かの子供を身籠るだろう
子供を宿して日々育てていく
胎内で
そして生まれ出てからも
日々 子供は育つ

成長して
私から巣立ったあとも
どうかそのことが
彼女の誇りになりますように

そして月や潮の満ち干のように
女にだけ訪れる
生命の理(ことわり)を
穢れと厭うことなく
次の命のためと
受け入れてくれますように

自宅の駐車場に車を停めたら
荷物を抱えていることを察知して
 おかえり
とドアを開けてくれる
気遣いもできるようになった

そして
テーブルの上のケーキの
「未来のママおめでとう」の文字に
照れ笑いして
無邪気にケーキの苺を頬張る
まだまだ子供の笑顔を見ながら
命のつながりを思う

はじめて
君に潮が満ちた日

201111


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テーマ : ある日の風景や景色
ジャンル : 写真

うそつき魔女 一ヶ月早いクリスマスVer.

うそつき魔女 一ヶ月早いクリスマスVer.

ママはね 魔女なんだ
でも誰にも言っちゃダメだよ
魔法使いだってばれちゃったら
魔法の国に帰されちゃうから

だけど君だけにはこっそり
教えてあげるね
魔法の国の話

ん?サンタさん?
あぁ、隣村のおじいさんだよ
君のこともよく話すよ
夜なかなか寝ないんだよねーって言ったら
プレゼントはちょっと考えなきゃなって言ってたよ
あ 欲しいもののお手紙は来週までに書かなきゃ
ちゃんと届かないからね
十二月になったら誤配も多くなるから

サンタさんは神様じゃなくて
妖精みたいなもんだからね
失敗も間違いもするから
まぁ 君のじーちゃんばーちゃんと
そう変わらないもんだよ

え?
友達が寝たふりして待ってたら
お父さんがプレゼント持ってきたって?

ばかだなー
サンタさんはちゃんと魔法かけて
家の中に入ってくるんだよ
自分の姿のかわりに
その子が一番大好きな人の
姿かたちに見える魔法
お友達はお父さんが一番大好きなんだね

君は誰がサンタさんに見えるかな
じーちゃんか
ばーちゃんか
それとも魔法使いのママに見えるか

そのうち君も魔法に気づいて
家族ではない愛する人が
サンタになって
君の子供のサンタになる日が来るのかな

うそつき魔女のママの魔法
いつになったらとけるかな
まだ君のなかでは
私は魔法使いでいられる

いまどきの現実的な子供とは
ちょっとずれてるけれど
目を輝かせて話をする
その素直さがあまりにいとしすぎるから

もうすこしだけ
君のママは魔法使いのままいようと思います

ごめんなぁ
君のママはとんだうそつき魔女です

今年も魔法を自分にかけて
サンタさんになりきって
そろそろプレゼント
ネットショップで予約しようと
夜な夜なサイト徘徊中

世界中の誰もが
サンタになる夜
みんなに
幸せな魔法がかかりますように

そしてもちろん
かわいい君にも

2010 10


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テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

さよなら 夏休み

さよなら 夏休み

一陣の風にそよいで
すすきの穂先が
風の行方を告げる

秋が来るのが少し遅いこの場所も
時折涼しい風が髪を揺らして
新しい季節が来た事を知らせ
昼間聞こえていた
子供たちの笑い声やさざめきは
つくつくほうしの鳴き声に変わり
明日からは
また 幾分静かな昼に戻る

しばらく休憩していた
筆箱 ノート 体操服も
明日からは目を覚まして
日々慌しく動き回ることだろう

夏の間 体調も崩さず
元気に過ごしたことだけにほっとする
ささやかな親心も
あと何年つづくものかと
私の呼び名がいつしか
「ママ」から「かあさん」に変わって
少し成長した子供の寝顔を
そっと覗きこむ

はじめて
まるまる四十日
一緒に過ごした夏休み

成長や考え方
いろんなことに触れて
安心したりはっとしたり
教えられたり

相変わらずこの人は
私の心を問いただし
いろんな気付きを与えてくれる
子供ながらも
人生の先生のようだ

明日からはまた
学校の生徒に戻るけれど

夏休みの間
少し静かだった朝の台所は
明日からまた
慌しさを取り戻す

携帯のアラームは
七月二十日の朝の鳴動時間に
セットしなおした

さよなら 夏休み
明日の朝から
おはよう 新学期

2012.09

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テーマ : ある日の風景や景色
ジャンル : 写真

<夕方キッチン>

夕方キッチン


一週間で
宿題全部終わらせるけんね なんて
威勢よく啖呵をきって見せたけど
進んでないねぇ
もう夏休みは半分過ぎたよ

自由研究
あれもしたいこれもしたい
夢は大きかったけど
頓挫したまま
冷凍庫からアイスを引っ張り出す

集中力ないねって言うと
「だって 誰かに似てるもん」
こんにゃろうな減らず口

よくよく考えれば
自分もそんな風だったのかしら
いやちがう
そう思いたい

でも夏休み最終日
何かを忘れてて
はっとしたこともあったっけ
そんなことを思い出す

毎日耳が痛かった
宿題は?」の言葉に
毎日勉強のことしか言わないなんて
あんな大人にはなりたくない
そんなことを思っていたのに

ふと気づけば自分が
あの頃嫌だった大人の姿になっている
時間の流れは
いろんなものを経年変化させながら
残酷に進んでいる

「もう知らんからね
もうなんにも言いません
真っ白な宿題持って行って
何もしなかったから何もできてませんって
発表してみんなに笑われて来たらいい
宿題全部部屋に片付けて
どうぞ遊んできたら」

そう言って背を向けると
背後から
「いやだよぅ 今から宿題するよぅ」
少し恨めしそうな半べそ声

よしよし
ちゃんとできたら夕食はオムライスだよ
だからしっかりがんばって
言葉には出さずに
心で応援しながら
小刻みに振る小旗

こんなせめぎあいで
毎年八月の暑い日々が過ぎる

あと何度こんな夏がすごせるかな
この子が大きくなったら
また同じように
自分の子供の頃の夏と重ね合わせて
笑ったり懐かしがったりするのかな

想像しながら一人くすりと笑って
とりあえずは
ドリルからがんばんなさいと声をかけて
オムライスに使う玉葱を切る

オレンジのチキンライス
山吹色の卵でくるんで
ケチャップで名前を書こうか
心で振った小旗の代わりに
小さな国旗を一個てっぺんに挿そう

きっと君はニコニコ笑顔で
ご褒美をたいらげてくれる
子供の頃の私が
そうしたかったように

ご褒美の前には
とりあえず頑張らなきゃね
流れる汗を拭いながら
フライパンを火にかける

夏休み
ちょうど折り返しの
蜂蜜色の西日が入る
夕方キッチン

2011.08

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テーマ : ある日の風景や景色
ジャンル : 写真

君の旅立ち

君の旅立ち

久しぶりの再開が
こんな形になるとは思わなかった

そのとき私は
朝の支度をしながら
友達とチャットをしていた

「今日は朝から近くで救急車が出てるの
 週が開けてすぐなのに大変ね」
そんなことを話していた

まさか君が乗っているなんて
想像さえしていなくて

事故なんてのは
ほんの一瞬の出来事で
気づいたときは
もう終わっていることも多い

君は不意に出てきた車に
直進の形で衝突したらしいと聞いた
汗ばむ九州の初夏
薄手のブルゾンでは衝撃を吸収できず
君は帰らぬ人となった

会社の人がバスで通りしな
まっ二つに折れ曲がったバイクと白いヘルメット
かなり広い範囲で道路の色が変わるほど
血液が広がっていたのを見たと言っていた


慌てて駆けつけた斎場
君がちゃんとかぶっていたヘルメットのおかげで
君の端整な顔に傷ひとつなく
本当に安らかに眠っているから
実感が湧かなくて

挨拶に来た叔父が
事故がおきてからのことを淡々と話してくれた

救急車が来たとき
すでに心臓は鼓動していなかったこと
医師も救急士もできる限り手を尽くして
それでも鼓動は戻らかったということ
今朝元気に出社したのが最後だというのが
まだ信じられないと

叔父がふと 弔問客に挨拶する叔母に目を遣って
「こいつが朝になると起こすんよ
 『しん、朝よ。起きんね』って起こすんよ
 俺は『もう起こすな』としか言えんっちゃんね」

まだ自分も実感が湧かなくてと

ヘルメットでしっかり保護されていた
端整な顔立ちの
閉じた長い長い睫毛は
揺り起こして声をかければ
ほんとうにふるふると震えて
眉を片方上げながら
 「あぁ ちょっと寝てた」
そんなことを言いながら
今にも目を開きそうで
叔母の気持ちが痛いほどわかる

事故というのは
ないにこしたことはないけれど
どんなに注意しても降りかかることもある
不幸にも運命の歯車は
交通事故という異物を挟み込んで
静かに止まった


斎場では君の棺の上を覆うようにして
彼女がずっと話しかけていたね

もしかしたら彼女とは
今日弔問に来た人と同じ顔ぶれのなかで
悲しい涙をぬぐう喪服ではなく
スポットライトを浴びてお辞儀をしながら
並んで晴れやかに 
そして少し照れ笑いの
白い衣装で会えたのかも知れなかったのにね

そう思うと切なくて
また一筋涙が流れた

今月末には三十歳になると話していた
まだ若い君は
その歳にしては珍しく
300人近い弔問客に見守られながら
静かに旅立った

残った君のご両親は
しっかりと
気丈なお姉さんと弟くん
そして私たちも支えていくから
どうか心配しないで

見上げた空に

「それじゃ いきますね(^-^)ノ」

そう言うように
ジャスミンの香りの風が流れた

五月

たくさんの人に愛された
まだ若すぎる君の旅立ち

2010.5

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テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

輪廻

輪廻

の向こう
あなたは今も笑っているのかな
私には追い越せない
遠い遠い人

あなたのそばに生まれて
私は幸せでした

戦火や貧しさをくぐり抜け
たくさんの子供たちや孫たちに
慕われたあなた

太陽の下
モンペ姿にエプロン
日本手ぬぐいを
きゅっと巻いた頭
力強く鍬の柄を握り締める
土でできたような
黒々とした確かな指

あなたのあの姿を最後に見たのは
いつだったかな
あなたはいつまでも
あの姿でいると思っていたのに

時間の流れの中
目を病み 足を傷め
いろんなことを忘れるようになり
やがて
座っていることもできなくなった

夜中にリアルな夢を見ては
家族の名前を呼び探しながら
寝所をいざり回ったり
まどろみの中
私たちには見えない人と話したり
ときには泣いたり叫んだり

家族はみな憔悴しながらも
あなたのそばにいたかったから
交代で介護していたけれど
具合を悪くして
ついに家では介護も難しくなり
病院や介護施設にお世話になった

施設や病院に入っても
一日たりとも欠かさず
家族の誰かがあなたの元に通ったのは
あなたがかけてくれた
惜しみないたくさんの愛に
少しでもお礼がしたかったから

みな あなたのそばから
離れたくなかったの

時々意識や記憶が巻き戻って
ちゃんと反応してくれた
 「ばあちゃん 私 だーれだ」
 「ななをちゃんたい」
 「じゃあいっしょにきてるのはだーれだ」
 「ひろちゃんやろうもん」
返事があるとうれしくて
妹と二人 目を合わせて涙ぐんだ

もう動かなくなった手足に
幾筋もの点滴やチューブ
土のにおいがしなくなった指先は
少女の指のように白く細く
だけど見えない部分は
内出血で青く赤く
痛々しく

 注射は一番好かんとよ
 血管が細いから刺さりにくくて
 みんな失敗しんしゃあもん
 痛いけん一番好かんと

つらくてそっと目をそらした
その先には鼻も口もすべて
線でつながれた寝顔

点滴の針に触れないように
あなたの手をそっととって
温度の薄い指を撫でながら

 ばあちゃん
 苦労が多かったね
 もう無理せんでいいよ
 みんなのがんばれ とか
 生きてって言葉に
 一生懸命答えてる
 頑張りやさんだけど
 痛いやろ?きついやろ
 無理だったらもういいよ
 そのかわりにさ
 私と縁があるのなら
 私のそばに
 もう一度生まれておいで
 まってるから

気のせいだったかもしれないけれど
あなたがうっすらとうなずいた気がした

それから二~三日後
みんなのお見舞いが
ちょうど一周した次の日の朝
あなたはたくさんの管から解きはなれ

ふわり

に散歩にでた

私は人目もはばからず泣いた

だけどそれは
悲しい涙ではなく
あなたが痛みや
たくさんの大嫌いな針や管から
開放されたことへの
安堵の涙
そして今までの
感謝の涙

 つらいからこそ笑わんね

ふと思い出したあなたの言葉に
複雑な表情で泣き笑い
あなたの教えてくれたことは
いつもいいタイミングで
私の背中を 押す

そっと背中を押されながら
日々は過ぎて
ちょうど四十九日の法要のあと
いなくなったあなたの席に
座る命が芽吹いたのを知って
あなたとはやはり
深い縁があったことを知る

あれから約十年
月日は流れて
新しい生命
小学三年生になった

生まれ変わりというものが
本当にあるかどうかは
神様しか分からないけれど
あなたの代わりに来た生命
ふと 感じた
輪廻という言葉を胸に刻んで

あなたに教わった
いろんなことを伝えながら
あなたに受けた愛情を
この子に返す約束は守れているかと
反省する日々

そしてあなたの教えに
あなたのそばにいられたことに
感謝する毎日

ありがとう
今も大好きな人

2010.2


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テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

3400g



冬の声が聞こえる夕暮れ
暗い夜道で携帯を開く

知らせのメールは
まだ ない

身を切る風に
頬を引っかかれながら
ポケットに手を入れて
暗い家路を急ぐ

自宅ではなく
実家への帰宅

実家の玄関を開けると
明るい光の中
温かい空気が運ぶ夕餉の香りとともに
奥から妹の夫が笑顔を覗かせ


「姉ちゃん いま産まれたよ
元気な女の子
母子二人とも無事で元気」


聞いたとたん体中が温かくなったのは
何も部屋があたたかかったせいだけではない

ちいさくはかなげで
けれど力強く声を上げて
新しい命が生まれてきた
そのことがこんなにも
体が熱くなるほどの幸せを運ぶ

たった3400グラムの
小さな赤い肌をした生命体が
この世界に現れた
その事実一つが
こんなにも家に光を降らせて
たくさんの笑顔を引き出す

ねぇ
新しい命

君の周囲の人たちは
みんな君の無事と幸せを祈って
君に会うのを楽しみにしていたよ

いままでずっと
お腹越しにしか会えなかったけど
やっと何も隔てずに会えるね

はじめて会うときは
まだ小さな君に
丁寧に挨拶をしよう

新しい光を
曇らせたり汚したりしないように

そして君は
困難に立ち向かう力を持って
自分を傷つけることなく
胸を張って歩いていくがいい

木枯し吹く冬の夕暮れ
新しい物語は3400グラムで幕を開けた

2009.02.11


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プロフィール

藍音ななを

Author:藍音ななを
詩作の長いブランクを経て2006/9から書き続けています。
空と雨を何よりも愛しています。

血液の82%はコーヒーでできています。
きっと できています。

写真撮影は注釈がないものについてはすべて
撮影者:藍音ななを
撮影機:au Win W41K(携帯by京セラ)
2008/2からau Win W61CA・softbank 940SH
を通して私の目が見た世界です。

著作権は放棄していません。
無断転載/無断引用/複製は固く禁じます。

●●このブログはリンクフリーです●●
綴った詩がお気に召しましたらお気軽にリンクをお持ち帰りください。その際お知らせくだされば相互リンクも貼らせていただきます。コメントもお気軽にどうぞ。

*アダルトとスパムサイト様はご遠慮させていただきます。


ネット詩誌 MYDEAR所属
福岡県詩人会所属

2013.6.9 藍音ななを
動画:夢路

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