ドライブ

日常の用事で
車のエンジンをかける
午前二時
普通の人にとっては
夢の中の時間
けれど私にとっては
まだまだ宵の口の時間帯だ
いつものように
二十四時間営業のスーパーと
振り込み用紙を持ってコンビニ
そんな感じで用事を済ませる
夜中の一人ドライブ
運転をしながら
いつも遅くまで開いている店の
灯りが消えているのに気づく
割と遅くまで人の気配があり
明るかった通りが
すっと冷えたように
ひっそりと暗いのは
流行り病の影響だろう
いつもなら
桜のこの時期
夜桜の花見で出歩く人も多い
街の名所の公園も
誰一人として人影もない
眠らないと思っていた街の灯りが
自粛の名のもとに
俯いて眼を伏せる
それにしても
厄介な病気が流行り出したものだ
今までに誰も出会ったことのない
新しい病
決定的に治す薬もなく
罹ると死も近づく病
そして
誰もが感染する可能性があり
罹ってもすぐには気づかずに
広めてしまうかもしれない病
本当に厄介だ
ウイルスが
人の体に入り込み
増殖をして
少しずつ遺伝子の配列を変えながら
媒介者を移動していく
まるで自由に
車を乗り換えるように
いや まてよ
それを言えば
私達人間は
いろんな遺伝子の乗り物で
そしてその私が車に乗って移動して
と言うことは
今の私自体が
様々な遺伝子のドライブ中なのか
そんなことをぼんやり考えながら
車を駐車場に停め
人の気配がない深夜のスーパーに入り
他の買い物客ともすれ違わない
静かな日常の買い物をして
隣りのコンビニで振り込みを済ませ
帰路に就く
帰る途中
車一台も走っていない
都市高速のランプ下
小さな公園の前で
車を左に寄せてハザードを焚く
自動販売機で飲み物を買い
見上げると
だいぶ葉が出始めた桜が
風に吹かれて散っている
吹き荒れる病の嵐も治まって
来年は安心して
明るい気持ちで花見もできるかな
ここの公園の桜も
来年は
一番きれいな時に見てもらえますように
しばらく眺めたところで
やわらかな音を立てて
散る花びらの中に雨が混じってきた
上がらない雨はない
明けない夜はない
・・・・・・かぁ
いま
風邪をひくわけにはいかない
車に戻って
エンジンをかけ
家の方向に走り出した
都市高速と
建物の影の向こう
仄明るい
朝の空が見えた
明けない夜は ない
20200412

